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ゆっくりと瞼を開けると、眩しい光が瞳の中に入ってきた。 目の前に、マントを布団代わりに包まって眠っているセイの姿があった。 そして昨夜の焚き火の跡。 明らかに消されたのであろう、土の焦げた跡まで残っている。 が、セイのその寝姿を見た途端、の頭の中は真っ白になった。 「セイくんーー!!セイくん!!こげこげこげるー!!」 起き抜けのせいもあるかもしれない…… わたわたと、慌てて、立ち上がるのもほどほどに転がるように、セイの方へ向かおうとしたその瞬間 自分とセイの間を割って、カゲがそこに現れた。 まさしく、現れたのだ。 「うわぁ!!」 興奮そのままに、反対側にのぞけり、尻餅をつく。 目をぱちくりするに、カゲは静かに一言、言った。 「主殿に近付くな」 その顔に表情は無い。そしてにカゲのそれなど読みとれるわけもなく……。 だが、その言葉はそれなりの効果をもたらした。 は小さな目でカゲを見、そして、焚き火の跡が完全に消えて、それが燃えかすであると気がつく。 小さな息とともに 「は? へ? つか、近づくなって、私は危険物ですか!」 手のひらをふいっと動かしてツッコむがカゲはそれを気にした様子はなかった。 「己の怪しさを解していないか」 「あ、怪しいですか? 一応、普通の女の子を自負してるんすが……」 あはは、と頭を掻きながら笑う。それほど大きくはないカゲの声に合わせてなのか、少し小さな声だ。 だがその笑い声はどこか空々しくも聞こえる。 セイが小さく声を出して身じろいだ。 カゲが肩越しで静かに伺い、はカゲを通して、セイを覗き込もうとする。 すかさず、それに気がつき少し睨むような視線を戻すと、の視界を遮るように手を挙げた。 「主殿はまだ眠っておられる。邪魔はするな」 セイはまだ起きる気配はない。 体を少し丸めて、眠っている。 は肩で小さく息をつき、少し苦笑気味に言った。 「そ、みたいだね。 火も消えてるし、私の勘違いだし。 うん、邪魔しないよ」 そして、にっこり笑い 「セイくんが燃えるかと思ってびっくりしただけさ」 カゲは動かない。 答えない。 を見据えるそのままだ。 ふいには、尻餅をついたそのまま、自分の寝ていたところまでずりっと下がる。 ぺたんと座ったまま、手持ちぶさたなようにじっとカゲを見ていた。 それにも飽きると、手元のリュックを引っ張ってきて、中身を全部出し、整理を始める。 時折ぶつぶつ言っているのは独り言だ。 ふっと、カゲが顔を上げると、その姿が消えた。 飛んだのだ。 現れたときと同じように、音もなく。 それを見てがまた目をぱちくりする。 「……さすがは忍者よのう……」 眠っているセイ以外誰もいなくなり、あたりは木の葉の音と鳥の鳴き声。 そして遠くで聞こえる獣の声……自然の音がだけが響いている。 全く動かない、寝息さえ聞こえないセイの様子にが整理の手を止めて顔を上げる。 暫く沈黙。 そして、やはり眠っているのだとわかると、口元を綻ばせた。 「セイくん、ほんとよく眠ってるなぁ」 再び、リュックの整理に戻る。 実際、手元のリュックの中身は大したものは入ってはいなかったのだが。 チョコレート。 みかん。 ノート。 筆記用具……。 小さな十得ナイフ。 タオル。 テッシュ。 りんごは昨夜食べた。 「もっといろいろ入れてたと思ったのに……」 呟く、が、なくて当然なのだ。 それだけ入っていただけでも不思議なぐらい。 は、ここに来る直後、家に居た。 普通に夕食前だった。 いきなりテレビ画面からの黒い渦に巻き込まれてここへ落ちた。 その状況でとタオルケットとリュックを手にしただけでも充分凄いと言える。 リュック整理を終えると、は立ち上がった。 そしてきょろきょろとあたりを見渡す。 「カゲさん、戻って来ないなぁ」 実は戻ってきていた。 隠れて様子を伺っていたのだ。 先程はモンスターの気配を感じそれを始末する為に、セイの側を離れた。 が、カゲにとって、という存在は、何者かわからない。 むしろ危険な要素だった。 警戒を微塵も解くわけにはいかない。 主であるセイに害をなすもの。 ……たとえ無害であっても、無用なトラブルから彼を守ることが、カゲの忠なのだ。 先程、は自分のことを『普通の女の子』と、言った。 だが、悪意なす者が自分で自分のことをそういうことはない。 とぼけたふうで、変なことを言う、何より、いきなり森の中で兵士に追われていた彼女が、普通であると納得するにはあまりにも……。 カゲが物陰に隠れて、自分を観察していることは全く気がついていないのだろう。 はいきなり、荷物をそこに置いたままふらりと歩き出した。 焚き火が見える範囲で、森のなかを散歩しているように見えた。 時折何か口ずさみ、踊っている。 やはり、怪しい。 そうこうしているうちにの姿は森の中へ消えていった。 踊りながら。 太陽の角度から見て、もう昼前だろう。 充分眠ったので頭もすっきりしている。 は森の匂いをいっぱい胸に吸い込み、散歩していた。 足は自然とリズムを刻み、唇からメロディが流れだす。 それぐらい心地よかった。 の家は田舎町で、窓を開けると田んぼ。 少し歩けば林。 坂を下れば川、と自然の多い場所だが それでもこれほど広い森はないし、空気だって澄み切ってはいない。 田舎とはいえ車だって通るし、開発もどんどん進んでいる。 それを寂しくも思っていたから……。 この自然ばかりに囲まれた世界の美しさに、酔っていたのだ。 昨夜の恐怖は 忘れていた。 だから、焚き火から少し離れてしまったことに気がつくのが少し遅れた。 「あ。 しまった。離れすぎ」 いくら美しい自然といってもここはの全く知らない国。 知らない場所。 セイ達から離れるのは危険だと、それぐらいはいくら脳天気な彼女でもわかっている。 戻ろうと踵を返した時、視界の端に何かが倒れているのが見えた。 「あれ?なんだろ」 辺りを警戒しつつ、はゆっくりとそれに近づいた。 それは 先程カゲが倒したばかりの モンスター にとっては異形の、本の中だけの生物。 「う……げっ……」 一気に血の気が引く。 本能がそれから体を離した。 戻らなきゃ! 足を反転させた時、茂みが動いた。 体が固まる。 「セイくん? カゲ……さん?」 問いかける声に答えはなく 現れたのは、が本でよく知っているその姿。 体は上半身裸の人間の男。 頭は、それは牛のもの。 そして、手には棘のついた先の丸い棍棒を持っている。 「え…………」 テレビゲームで。 アニメや映画で。 そしてTRPGの世界で定番の 「ぎゃーーー!ミノタウルスーーーー!!!!????」 これまでにない叫び声が森に響いた。 鳥たちがざわめき羽ばたく。 叫び声をあげきらないの横を棘のついた鉄球の部分が掠めた。 ぎりぎりのところで防衛本能が体を動かしたのだ。 だが反動での体は地面に転がる。 「ぎゃーー!殺す気か!ワレェ!!」 それでも文句を忘れないところは立派というべきか…… 防衛本能からの指先が髪を結ぶ紐に延びた。 それをはずそうと、動かすが (私……! 震えてる!?) 指がまともに動かない。 戦わなければ……殺される 頭でそれはわかっている。 しかし体は動いてくれなかった。 最初にかわせたのは本能だ。 頭で、理性で動こうとするには は、なんの経験もなかった。 の横を掠めた鉄球はミノタウルスの手元に戻ってる。 それで、あの武器がモーニングスターのようになっているのだと、想像はついた。 だからと言って、どう戦う……いや、どう逃げる? 逃げ切れるのか…… ただ、最後の闘争本能が、ミノタウルスの視線から外さないように、その行動を見逃さないように、 なんとか、まっすぐ前を向かせてくれていた。 その努力も一瞬で終わった。 背後でミシミシと音がする。 気配がの全身を覆う。 そこにもう一体のミノタウルスが立っていた。 今度は悲鳴にもならなかった。 |