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ティントの、その北にある教会。 響くパイプオルガンの音は荘厳で……しかし、何処か妖しさを秘めている。 それは空気すら重く、狂おうしくさせるもの……。 赤い瞳に隠微な光を宿し、ネクロードは待っていた。 今宵の、特別の獲物が現れるのを。 ふいに扉が荒々しく開けられた。 「ネクロード!年貢の治めどきだ!」 「リリィ達を返して貰うぞ!」 入ってきたのは猛々しい戦士達。その中心にいる、際だって異彩な少年の姿にネクロードはその瞳を細める。 「待っていたぞ。然し……」 黒いマントがサッと払われ翻った。 「無粋な邪魔者には消えて貰おう」 パイプオルガンの音が大きく室内に響く。 何処からか現れた蝙蝠の群が戦士達に襲いかかった。 「うわ!!!!」 ビクトールの、フリックの目の前が塞がれる。 ナナミの、カーンの体を覆うようにまとわりつく。 振り払い、凪ぎ払い、気が付いた時には、すでに遅かったのだ。 「……あれ?!カイ……カイは!?」 ナナミが蝙蝠に襲われた時以上の悲鳴をあげる。 「ヤツも……ネクロードもいない!」 「まさか……」 カイ一人の姿が、その場から忽然と消えていた。 蝙蝠達に襲いかかられた時、カイはふいに体が浮くような感覚を覚えた。 腕を動かすが空を切るだけど……気が付くと、五月蠅いぐらいのパイプオルガンの音に飲み込まれるように、意識をなくしていた。 音がまだ耳の中に残っている。 まだ薄い意識の中で、カイはゆっくりと瞼を開けようと試みた。 それは思ったより楽にできた。 「ここは………………」 呟く。声にすることでよりはっきりと意識が戻ってくる。 「目覚めたか、美しい少年よ」 一瞬自分のことを言われたのだとは思わなかった。 少し頭は重い。けど……体は動く。 頭を巡らすと、自分が祭壇のような上に寝かされている事に気が付いた。 「私の生贄になるにふさわしい……」 言葉とともに頬に何かが触れる。ゾッと背筋に悪寒が走った。 逃れようと体を起こすと、体が悲鳴をあげる。 祭壇から転がり落ちた。 「これは……元気な兎だ……」 イヤらしいねとつくような声。 もう一度体を起こそうとしたところで、その細い腰をしっかりと捕まれてしまった。 「……ネクロード!!」 今度ははっきりとその瞳に敵を映し、カイはその腕から逃れようと、藻掻く。 が、体格の差もある。しあkもその力は予想以上に強い。 「……っ……放してくださいっ…………!!」 こんな相手でさえも敬語になるのはただの癖だ。別にネクロードに敬意を持ってるわけではない。 だが、ネクロードはその様子に、満足そうに笑みを浮かべた。 「意気の良い兎だ。喜ぶがいい。お前は選ばれたのだから」 「…………!!!」 息を飲む。ネクロードの顔がすぐ側にあった。 懇親の力でその胸を押す。が、びくともしない。 「死よりも甘い洗礼を授けよう」 恍惚とした表情で、まだ必死に藻掻く腕の中のカイの顎を捕らえた。 笑ったネクロードの赤い口から牙が覗く。 「……やっ……やめっ………………」 「すぐに……自分から強請るようになる」 唾吐したくなるような青白い顔が、頬を掠め、カイの首筋に埋もれた。 「……ぁ……!!」 噛まれる! そう思って、ぎゅっと目を閉じた。が、痛みは一向に来ない。 「……ぅん!!」 その代わり、もっと嫌な感触がカイを襲ってきた。 ねっとりとしたざらついた感触……。 恐る恐る目を開け、その感触の正体を知り、思わず叫び声をあげる。 「うわぁぁぁ!!」 服の間から覗く、白く細い首を、ネクロードの舌が這っていた。 「嫌!嫌だぁ!!!」 さっきよりも激しく抵抗し、その顔を振り払おうと、カイは身を捩る。 「良い声で鳴く」 満足そうにネクロードが笑う。 自分のその行動でさえ、ネクロードを満足させるものなのだと思った時、カイの全身から、力が抜けた。 「そう、それで良い……。その身を委ね、快楽に心を墜とすが良い」 冷たい指先がカイの頬に触れた。まるで宝物でも抱えるかのように、その顔を上へ向かせる。 墜ちる……?ネクロードに……。この吸血鬼の思いのままに……? 失われかけたカイの瞳に力が宿った。 「嫌だ、絶対に!!」 ネクロードの眉がつり上がった、その瞬間 ガシャーーーーーーン!!! まるでガラスの割れるような音。 ネクロードが、カイが驚いて、その音の方を見る。 「カイから離れろ」 立っていたのは、頭に緑のバンダナを巻き、棍を構えた整った顔立ちの少年。 「セイさん!!」 カイが安堵の声をあげる。 ネクロードにも覚えのあるその顔。依然の戦いで自分を追いつめた者だ。 破られた結界に、ネクロードは内心怯みつつ、カイとセイの間に立ちはだかった。 「お前に私が倒せるのか」 セイが唇の端だけで笑った。 「ぎゃああ!!この私が!!!」 セイの逆鱗に触れ、しかもシエラに月の紋章を返し、星震剣をも前にしたネクロードに勝ち目はなかった。 見る影もなく……今度こそ、一掴みの灰になった。 捕らわれていたリリィとロウエンがフリックに縄を解かれて、自由になる。 どんよりと黒い霧に包まれていた教会に、光が戻ってきた。 「カイ……大丈夫だった?」 そっと、セイがカイに近づき、怪我はないかとばかりにその顔を覗き込む。 「はい!セイさんが来てくれたから……」 カイの笑顔が光りそのものだった。頬を高揚させ、その唇までも赤く見える。 「…………そう。……じゃあ……良かった」 差し出そうとした手を引っ込めた。 いま触れると、抱きしめてしまいそうだったから。 カイはそんなセイを不思議そうに見て、首を傾げる。 なんでもない、というふうに笑ってみせると、カイはほっとしたように柔らかく微笑んだ。 カイの手がセイに伸ばされる。その動きをまるでスローモーションのようにセイは見ていた。 「ありがとうございます、セイさん」 柔らかいものが唇に触れた。 それをカイの、唇だと気が付くのに、暫しの時が必要だった。 「セイさん、行きましょう?!」 ふいにその手を取られて、皆のところへ走り出す。 自分の顔はいまどれだけ赤くなってるのだろう。 セイは思わず視線を反らしたが、 その顔は教会の光に包まれて、カイとともに輝いているようでもあった。 ネクロード編・完 「……………………優ちゃん、コレ」 「?」 「どうしたんですか、さん? リュックの整理中?」 「げっ!!セイくん!!カイくん!!!いや、うん、そう!!!整理!!!」 「顔色悪いよ」 「はは、はは、なんでもないよ、セイくん……」 「ー? ほんと大丈夫かぁ。さっきなんか、本みたいなの隠さなかった?」 (ケイちゃん鋭い!) 「ううん、なんにも。あ、ほら、後で持ってきたおみやげは見せるし、あはあははははははは」 (セイくん達には……絶対見せれねぇ……こんな同人誌……!!!) つか、見せたら我が身が心配………… |