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「こんな時間に女性の一人歩きは危ないですよ」 声に振り返ると、月明かりの中にカミューが微笑みながら立っていた。 「今晩和、さん」 「あ……カミューさん こんばんわ」 悪戯を見つかった時の子供の仕草でぺこりと頭を下げて、挨拶をする。 「あの……ちょっと夜桜見物をしてたんです。 あんまりお月様と桜が綺麗だったから……」 その言葉どおり、空に昇る満月が満開に咲く桜の花びらを照らし浮かび上がらせていた。 「カミューさんこそどうしたんですか?」 「私もですよ。 月と花の香に誘われて、ね」 女性の9割はときめきで失神してしまうであろう微笑みを投げかけられて、 さすがにも頬を染める。 「そういう台詞が似合うのって……カミューさんぐらいですね」 「有難う御座居ます、レディ」 照れ隠しににへらっと笑って見せる。 こういうところが、彼女の一般女性とは違う反応だろう。 「しかし、花冷えしてしまわないように。 そろそろ中に入った方が宜しくありませんか?」 「あ、はい。 そうします!」 そっと、の前に手が差し伸べられる。 「お手を」 「え、でも……」 「お部屋まで、共をさせては頂けませんか?」 「……はい、あの……ありがとうございます」 差し出された手に、小さな手のひらがそっと乗せられ…… カミューに手を引かれて、は軽やかに歩き出した。 「そのドレス、さんによくお似合いですね」 「ほんとですか? うれしい。 これ、ナナミちゃんに作ってもらったんです」 が相好を崩す。 さすがはカミューだ。 普段のの服とは違うことに気がついていたらしい。 「そうですか、ナナミさんが」 「はい! 着心地も最高なんです!!」 薄桃色のその絹衣は、色も形も本当にによく似合っていた。 明るい場所では白にも見えるかもしれない。 だが、今は月光と、満開の桜に照らされて、美しい薄紅色だ。 ふと、カミューは、の唇も同じ薄桃に彩られていることに気がついた。 普段は化粧っ毛もなく飛び回っている彼女でも、花と新しい服の前では 普通のレディになるのかもしれない。 ふわっと、一陣の風が吹いた。 あっ、……と靡く髪を、はもう片方の手で押さえる。 桜吹雪がとカミューの間を舞っていった。 「さん、失礼」 「え?」 言われると、ぴたっと固まったように動きを止める。 その髪にカミューの指が伸びた。 は思わず、ぎゅっと目を瞑る。 「驚かして申し訳ありません」 そう言われて、目を開けると、カミューが一枚の花びらを見せる。 「あや。 髪についてましたか」 笑うと、カミューも小さく笑った。 「えぇ。 そのままでも綺麗でしたけどね」 さっきの一陣の風が吹いた後 彼女の髪に一片の桃色が残っていた。 どういう気持ちでそれに手を伸ばしたのだろう。 ただ、その黒い髪はカミューが思っていたよりも柔らかかった。 「どうせつけるなら……」 カミューはの手を一度離すと、近くの桜の枝に手を伸ばした。 花を優しく手折り、それをの髪に刺す。 「うあ……」 の顔が見る間に真っ赤になる。 それからはっとしたように 「カミューさん、花折っちゃだめです!」 むぅっと、口を尖らせるが、すぐに表情を変えた。 「でも、えっと、ありがとうです……」 カミューは思わず、笑ってしまった。 「いいえ。 桜には可哀想な事をしましたが、その桜もさんの髪に飾られて満足していると思いますよ」 「カ、カ、カ、カミューさんてば!」 わたわたとしながら、その手を髪の桜に延ばした。 その存在を確かめるかのように。 「って……これも桜なんですか?」 「えぇ。 『花笠』という名の、桜の一種です」 「へぇー……知らなかった……。 こんな花びらのいっぱいついた桜もあるんですね」 「私も騎士団に入って、初めて知ったのですが」 カミューの生まれた町にも、ロックアックスにも桜はなかった。 「……でもカミューさんてなんでも知ってる……」 花をそれ以上崩さないように、はそっと手を降ろした。 「なんか……この桜、カミュさんみたいですね」 照れくさそうに笑う顔を、不思議そうにカミューが見返した。 「『花笠』が、ですか?」 「はい。 なんか、鮮やかで派手で、でも柔らかくてかと思うとしっかりしてて」 たぶん誉めているのだろう。 なぜ、この桜が自分に似ていると、が思ったのか、カミューにはよくわからなかったが。 「桜なのに桜に見えないところも」 時折、彼女の表現は難しい。 カミューは敢えてそれがどういう意味か、とは聞かなかった。 代わりに、微笑み、にもう一度手を差し伸べる。 は珍しく、大人っぽい微笑みを返すとその手を取った。 再び、桜の並木の中を歩き出す。 「あのですね、私の国に花笠音頭という踊りがありまして……」 月明かりの 桜の並木を ゆっくりと |