「こんにちわ、さん。 良い天気ですね」



木漏れ日 ひらひらと桜の花びらが舞い落ちています


「キニスン、シロ、こんちわ! うん、最高のお花見日和だよ」



少女が手を振り 裾を翻して、少年の側へ駆け寄ります

少年に付き従う真っ白い狼犬が、彼女を見上げました

彼女は狼犬に高さを合わせて、少し屈み、笑顔の挨拶


「花を見てたんですか?」

「うん。 お花見散歩みたいなかんじで。 キニスンたちは?」

「僕達も……にたようなものです」

「じゃあ、ご一緒に歩きませんか?」



笑って 少し気取ったように 薄桃色のスカートの先を摘む様子に

少年も笑います



「はい、喜んで」



二人と一匹は 抜けるような青空と 柔らかい風に舞う桜の花びらの中を

ゆっくりと歩き出しました


「今度はお弁当を持ってきましょう!」

「良い陽気ですから、きっと楽しいでしょうね」

「そういえばお昼は食べた?」

「はい。 さんはまだなんですか?」

「うん、まだ。 ってか、起きてまだそんなにたってなかったりするんだな」

「そういえば……よく夜遅くまで起きてますよね。 朝は苦手ですか?」

「うーん……ちょっぴり? でも朝まで起きてるのは平気!」


話しながら歩く少女の顔に桜の花びらが飛び込んできました


「ぶお!」

さん!?」


ちょっと女の子らしくない悲鳴でしたね


少年のほうは驚いて彼女の前に垂れ下がっていた桜の枝をかき分けてくれます

まさか、目の前に見えている枝垂れ桜の枝の中に、彼女が正面からつっこむなんて

誰も思いません

狼犬のほうも心配そうに鼻を鳴らします

少女は小さな瞳をいっぱいに開けて、それからまたばきを二、三度


「はぁ、びっくりした。 ありがとう、キニスン」


頭をふるっと振ると、髪についた花びらがはらりと落ちました


「いいえ。 でも、大丈夫ですか? ……もしかして……見えてなかった?」

「……はい。 えっと、上の桜並木に気を取られて……。 これも……桜?」

「ええ、枝垂れ桜……ですね」

「へぇ……梅かと思った」

「なぜです?」

「……垂れてるし」


少女の言葉に少年は笑います


「そうですか。 桜でも、いろんな形のものがあるんですよ」

「そっかぁ、さすがはキニスンだね、よく知ってるんだね!」


少女は楽しげに言うと、自分がぶつかってしまった紅枝垂れ桜の木の幹に

そっと手を伸ばしました


「でもおっきいんだね、この木。 枝は顔の前に来るくらい垂れ下がってるのに……」


慈しむように撫でる少女の手の動きに


自然と少年の笑みが柔らかくなります


ゆっくり少女の隣に立ちました



「この種の桜は、もっと大きくなる事もあるんです」

「へぇー…… 一見細くて優しげなのに……でも大きくて力強いんだ」

「そうですね」

「じゃあ、この桜はキニスンだ」

「え?」


時折、この少女は突拍子もないことをいいます


「ちょっとここで休憩していきましょう!」

「え、えぇ」

本当に行動も突拍子もないんです



大きい枝垂れ桜の下で、少年と少女は狼犬を間に、ちょこんと座りました


さらさらさら………………

風に枝が揺れています


ふわり花びらが青い空に舞っています


「きれい……」


見上げる少女の横顔を 少年は不思議な思いで見ていました。

ふいに

少女の唇からメロディが流れ出します

優しい綺麗なメロディです


少年は 少女から視線を外しました。

相棒の狼犬をそのメロディにあわせるように優しく撫でると

彼は気持ちよさそうに大きなあくびを一つしました




春が ここに来ていました




どれぐらい時間が流れたのは少年はわかりません


ふいにメロディが途切れました


少年が少女の方を見ると



すぅ……



メロディの代わりに小さな寝息が聞こえます


少女は狼犬にもたれかかるように


眠っていました



少年はそっと微笑むと、そのまま空を見上げました


抜けるような青空が 瞳の中に映りました……
















「……さん……さん。 ……そろそろ起きないと……」

「……桜餅、もういっちょう……」

さん…………?」