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「……?」 セイの少し擬問を含んだ、茫洋とした声に、ぼんやり歩いていたは少し驚いて振り返った。 「あれ? セイくんー」 彼女の あれ? にも、なんでこんなとこにいるの?という疑問が含まれている。 セイは、普段通りの笑顔にほんの少し不思議そうな感じを混ぜて、軽く首傾げ 「何、してるの。 こんな所で」 問いかけると、たったっと、ステップを効かせて、駆け寄ってくる。 「えっと……一人花見してたの。 セイくんはどうしたの? 散歩?」 子犬のようなその様子に、少しだけ笑顔見せて 「散歩…………うん、散歩、かな」 答えた。 「そっか。 夜の散歩、珍しいね」 はくすくすと笑う。 「セイくんと外で夜に会うのも、珍しいね? 一緒に散歩していい?」 「……うん。 それも、良いね」 そう言うと、ゆっくり歩き出す。 いつもどおりの笑顔……でも……その笑顔が本当の意味での笑顔でないことをは知っている。 でも 聞かない ただ、少しだけ首を傾げてから 一緒に歩き出す。 「……えっと、静かだねー、ここ」 静かに浮かぶ闇の中にの明るい声が響いた。 「うん。 夜だから、皆床に就いてるんじゃないかな。 は、寝なくて大丈夫?」 ゆっくりと、歩く 視線が向けられる でも、それは どことなくうつむき加減で。 だから 「そっか、みんな寝ちゃってるか! うん、ほら、私はもともと夜強いから」 にこっと笑うと両手をうーんと延ばした。 「たまには夜の空気吸わなくちゃ」 「夜の空気は、透き通ってる気がするね」 「うん、だからね、夜の散歩は大好きだよ、私。 それに桜もきれいだし!」 「……桜?」 セイが少し不思議そうに言う。 きょとんとうなずいて 「桜」 と、上の桜の並木を指す。 視線はその指先に移り、そして、首を巡らしてそのまま指先の向こうへ。 「桜の花だよ、満開でしょ?」 言葉通りだった。 満開の桜……サクラ……櫻…… それが闇の中に浮かんでいる。 まるで………………………… 「……桜……なんて、咲いてたんだ。 気がつかなかった」 「え!」 どこかぼんやりと桜を見上げるセイの、桜が咲いていたことに、気がついたばかりのような口調に はちょっとびっくりしてから答えた。 「そっか。 うん、咲いてたの。 満開なの」 セイならそれもあり得るかもしれない。 桜に気がつかず歩いていたということも…… 横に並んでいた彼の姿が視界の端から消えた。 あれ?っと、首を巡らすと、 彼は無言で目を細めて、そのまま立ち止まり、桜を眺めていた。 戻って、目の前に立って、同じように桜を見上げる。 桜の花が風に揺れていた 「私、桜の花大好きなの」 その言葉は何処に発したものか……はそのまま話し出す。 「だから、こんないっぱいの桜、ゆっくり見れるの嬉しいんだぁ。 私の国じゃ、のんびり桜、見れないから……」 それから、笑ってセイを見た。 「あ、宴会は好きだよ? お花見宴会。 でもほら、こうやってぽやっとみたい時もあるわけで」 「……血」 小さな呟き それは静かな桜闇の中での耳にも届いた…… 「………………血!? 死体?! 埋まってる!? どこ!!?」 慌ててきょろきょろする様子に、流石にセイはに視線を戻した。 僅かに苦笑い浮かべて問う。 「……死体? 埋まってるの?」 「え…………」 の頬が桜のように紅く染まる。 「ごめん……えっと、私の国でそういうのがあるの。 だからつい……」 言うのを一瞬躊躇った だから、一拍置く形になった 「桜の下にはね、死体が埋まってるんだよ、って」 セイは、 その言葉に少し驚いた顔をした後、目を細めて微笑み 桜を見上げる。 「死体か……確かに、埋まっていても可笑しくないかもしれないね。 こんなに、綺麗な赤……」 「うん。 あのね、桜が薄紅色なのは、その死体の血を吸ってるんだって……。 だから桜は美しい、って」 「………もしかしたら……」 「え?」 「……待っているのかもしれない」 桜を見上げていた はセイを見た その笑顔から感情は読みとれない。 「待ってるの?」 言葉を反復して、不思議そうに首を傾げてみる。 「血を流して、その身を真っ赤に染めながら」 言葉切られる その口も目も、閉じられる そして ゆっくり目を開けてから 「待っているのかもしれない。自分の所へ、来てくれる事を」 「そうなのかな?」 の中に前に覚えた唄が流れだした 〜薄紅色の……………… 〜薄紅色の微笑みを 浮かべて 貴方を待っています……………… 「だから人は桜の花びらに惹かれたり酔ったりするのかな……命をその中に見るのかな……」 は再び桜を見上げた。 淡く微笑んだように見える顔を向け…… その言葉を静かに聞き 言葉が終わると、視線を再び桜に戻す 「あのね、桜の下でみんな宴会するのは、きっと、魂に楽しんでほしいからなんだよね。 賑やかに歌唄ったり、芸をしたり……。 …………そういう命に伝えたいのかも」 そう、思いたいのかもしれない…… は目を伏せた。 そう 思いたいのだ、私は でないと、切なすぎるから 「あのね、あのね、セイくん。 私、桜のお芝居、いろいろしたんだけどね」 顔を降ろして、再びセイの顔を見つめる。 「桜の下に間引きした子を埋める話とかね、桜の木に殺した人を吊して、恋人を待つ話とかね、けっこう、殺伐としたのが多いの」 話し出した彼女にゆっくりと顔を向けて、変わらず淡い微笑みで 「……そうなんだ」 一言、答えた。 「うん。 でもね、演じてて思うの。 いつも悲しいのは人なの」 彼女の瞳の中が少し揺れる。 「桜はね、いつも優しいの。 この紅い桜もなんだか、見てるとね、とても優しいの」 そう……思いたいのか……そう思いたいのだろう……私は…… 「…………」 セイは何か言おうとして、少しだけ口を開く、 が、 表情を曇らせ直ぐに桜を見上げてしまう 「……僕は……」 憤っているような、泣きたいような………… あまり見たことのないその表情で呟くが、口を閉じる 推し量れないオモイ…… 二人の間に無言が続く。 は、そっと桜の木の幹に手を触れた。 見上げる。 何を 伝えればいいのか 何を 伝えたえたいのか 推し量れないほどの 想い 振り返り セイの瞳を見る 風が吹いた。 花びらが舞う。 セイの唇が動いた 枝が揺れ、風に奏でられる その音に掻き消されて には聴こえない 泣きそうな想いで 桜を見上げてから 小さな決意 セイの方へたったと近づく 「……あのね、でもね、こんな話もあるの」 にこっと微笑んでみせた 「桜が薄紅色なのは、桜の妖精が愛を感じて、ぽって紅くなるんだって! だから、その……なんだ、桜の下で、キスとかすると桜の穴がもっと紅くなるとかならないとか……何言ってんだ、私は」 最後の方は照れたのか一人ツッコミを入れたに セイは無言のまま、少しだけ微笑み、そして視線を桜へ は照れ隠しのえへへと、笑う 「ね、セイくん。今度みんなでお花見しない? お昼に。 カイくんもケイもみんな誘って! 桜の木の下でみんなでお弁当食べて、お酒飲むの!」 の声が元気に楽しそうに弾んだ。 ゆっくりと視線を下ろして、笑顔で笑って 「……うん、そうだね。 それも、楽しそうだ……うん」 「でしょ? もちろん、フリックさんに宴会芸をさせるの」 言葉は不穏だが(フリックにとっては) 笑顔で、きっぱり言うに 変わらない笑顔のままセイは答える。 「カイも、きっと楽しいって言ってくれるよ」 「うん! 明日にでも相談するね」 少し、うかがうようにが覗き込んだ。 「お酒、ちょっとぐらいだったらいい?」 遠慮がちに聞く。 これはのことではない。 明らかにケイのことを聞いているのだ。 は酔わないが、ケイは酒に酔う。 セイの……張り付いてた笑みが可笑しそうなものに変わった。 「駄目」 「ぷう」 一陣の風が吹いた。 「あ」 さっきより少し強い風 は珍しく降ろしていた髪を押さえる。 スカートの裾も風にもてあそばれていた。 セイはわさわさと揺れる枝を見上げてから、 の方に視線をやって、言った。 「そろそろ戻ろう。 少し、寒くなってきた」 一呼吸 「それに」 切られた言葉に、は髪を手櫛で直しながら、首を傾げる。 「うん?」 一度目を閉じ、そのまま笑う。 嬉しそうな……泣きそうな…… でもはっきりとした微笑みで……………… 「カイに会いたい」 は 笑顔で返した 思い出していた さっきの唄の最後を 〜私は貴方に会いにゆく………… 〜緋桜に埋もれながら…… 〜淡い闇の中を…………………… 〜どうか……私を…… ……………………そう……私は…… 「うん、行こう!」 元気良く歩き出したの後をついて、セイも歩き出す 寒緋桜<カンヒサクラ> 鮮やかな濃い緋色の桜。釣鐘で下垂している。 その花びらは 血のように紅い |