夜の帳が下りる前から、すでに薄暗いその森の奥で



がさっ、ざっ



土を掘る音が響く。


固い道具で掘る音ではなく、何か柔らかい物で






土を掘る音が響いている。





希望への挽歌





薄暗い森の中で、懸命に土を掘るのは

年の頃は10代の半ばくらいに見える、一人の少年。


ざっ、ざくっ。


土を掘るのは、その両手。

爪と指の間に土が入り込み、指先の皮は既に破れ始めており

赤い血が

黒い土が

その手を染めている。




赤黒い両手で、大地に穴を作る。




傍らに置かれた荷物は

その存在も忘れられたかの如く、所在無さ気に持ち主を見ている。

空の見えない森の中で

木々の間から少しだけ顔を見せた星が、その持ち物を光らせる。


キラリと光った、鉄の弓




「ごめ……ん…………ごめん、な……」



土を掘る音に消されてしまいそうな大きさで

少年は何度も呟く。


「ごめん……ごめん、オレの……オレの、所為で……」


ぽたり、ぽたりと

土に吸い込まれていく水の色は、赤く。


「……ごめん……ごめん…………ごめん」


ぽつり、ぽつりと

言葉は、透明な雫になって森へと消える。


「ごめん…………」






一心不乱に少年が掘り続けた穴は

少年すらも入れそうな大きな穴。


しゃがみ込んでいた少年は、ふらりと立ち上がると

傍らの荷物へと

荷物の傍に在る、そこへと歩み寄る。




すっかり冷えている身体。


開く事のない瞳。


二度と差し出される事のない手。


時の止まってしまった、彼。




大切に、愛おしむ様に

少年はゆっくりと彼を抱えて、穴へと誘う。


自分よりも大きく作った穴は、少しだけ彼には窮屈そうで。

「少し……狭いかも、しれないけど……我慢してくれよな。あと少しだけの、辛抱だからさ」

僅かに膝を折り

丁寧に、丁寧に寝かしつけてやる。


そして


温かい、大地の布団を

足から少しづつ、被せてやる。




かさっ、ざっ。

「すぐに……自由にしてやるからな……」

ざっ、ざっ。

「もう、オレになんて付いて来るなよ……」

ざさっ、ざっ。

「……オレになんて……近付いちゃ、いけなかったのに……」

ざっ、ばさっ。

「近づけちゃ……いけなかった……のに……」






肩まで、大地の温かさに抱かれ静かに眠る彼は

少年の見慣れた顔をして

「こんな、時まで……お前は笑うんだな……」

呟く少年に、微笑を浮かべている。


安らか。


そう例える事しか出来ない、幸せそうな笑みで

少年を、見つめている。


「こんな時まで、お前は……オレを心配してるって言うつもりか」


少年は

ぽたり、ぽたりと注ぐ雫を払い

彼に応える様に、精一杯の笑みを浮かべて



「有り難う…………アルド……」



最期の土で、彼の笑顔を消した。




その場に残ったのは


赤く染まった土と

星の光を受けて鈍く光る鉄の弓。



それと



彼の笑顔が消えた大地の上で、水溜りを作る少年。




夜の帳が下りる前から、すでに薄暗いその森の奥で


小さな小さな音が響く。


水の落ちる音に紛れて、必死で押し殺した酷く苦しい





小さな小さな嗚咽が響いている。





04/09/06