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夜の闇が辺りを覆い隠そうとしていた。 森の中はすでに暗く、一足先に夜が訪れているようだった。 その森の中に一人の少女が転がるように走り込んできた。 転がるように、というより、むしろ……暴れながら? まるで下着だけのような格好に、厚手の布をマントのように肩に巻き付けて 手に持っている布袋をぶんぶんと振り回している。 「待て!」 「止まれ!!」 その後ろから、数名のハイランド兵が追いかけていた。 もちろん、少女はその言葉を無視して走る。 叫びきって枯れた喉から切れ切れに何か呟くが、 幸いその暴言は兵士達には届いていない。 「あれは……」 静かな森を一変させた騒ぎに、 セイ・マクドールは野宿していた茂みから様子を伺った。 「カゲ」 「はい」 気配もなく背後に片膝ついて現れたのは濃紺の忍び装束に身を包んだ男。 「あの状況、どう見る」 セイの視線の先には逃げる少女と、追いかける兵士達 その時、少女が転がった(えぇ、こけたのではなく転がったのです) 何かに躓いたらしい。 「……ハイランド兵が、少女を追い掛けているようで」 「うん。じゃあ女の子の保護、頼むね」 「承知致しました」 セイは無言で茂みから飛び出すと、ハイランド兵達と少女の間に割り込んだ。 「何者だ!」 突然の乱入者にハイランド兵は剣を抜き、構えた。 「!?」 その声に必死に立とう藻掻いていた少女が、振り返った。 セイの姿に、一瞬青ざめ息を飲む が、その視線をカゲが塞いだ。 そして有無を言わさず抱き上げると、茂みへと隠れる。 「○▽□!!!!」 少女は混乱しているようで、カゲの腕の中じたばたとしているが、 ハイランド兵と戦っているセイの姿に暴れるのをやめた。 黒いつぶらな瞳で、カゲの顔と、そしてハイランド兵を事も無げに追い払うセイの顔を見比べている。 ハイランド兵が全て地に伏せると、カゲは隠れていた茂みから姿を現した。 「主殿、お怪我は」 「ない。彼女は……」 カゲに、地に降ろされた彼女は、へなへなと座り込んでしまっていた。 「大丈夫?」 腰を抜かしたらしい少女の前に膝をつき伺う セイはここで初めて少女の姿をまともに見た。 黒髪を頭の上の方で二つに結び、使われている紐は奇妙な形に結わえられていた。 逃げている途中で擦り剥いたのか、体中に血が所々滲んでいる。 少女は髪と同じ色の瞳を大きく見開いて叫んだ。 「☆○×☆☆○!?」 初めて聞く言葉だった。 「え? 何?」 セイが聞き返したと同時にそのまま、少女は後ろのめりに倒れ込んだ。 ごすっ とても良い音を……セイは聞いたような気がした。 「…………」 思わず正座。 少女はピクリとも動かなかない。 暫く眺めてから、無言でカゲの方を見る…… 「某が……調べ、ましょうか?」 「うん」 カゲは手際よく倒れ込んだ少女を調べると、わかった事を手短に報告した。 結果 頭の後ろにたんこぶ 体のあちこちに擦り傷 足首の捻挫 ショックで気を失ってるだけ 取り立てて一番先に手当……だろうか。 セイは自分の荷物の中をぶつぶつと言いながら探り始めた。 「傷……薬……あ、魔法札」 整理されていない袋の中から一枚の魔法札を見つけだす。 「まだ使った事ないから、一度使ってみたかったんだよ」 ウキウキと『優しさの雫の札』を取り出すと、 魔法札を少女に使ってみた。 光が彼女の体を包み、小さな傷が消えていく。 その瞼がゆっくりと開き…… 目の前のセイの顔を見、カゲの顔を見…… その目をぱちぱちと瞬いた。 「こ、こ、こ、ここはドコデスカ?」 それが聞き取れた少女の最初の言葉だった。 その2へGO |