兵士達に追われていた少女はセイとカゲに



という名を名乗った。

、が名前で が姓だという。

姓を持つからと言って、彼女の行動はどう見ても貴族やそういったたぐいの人間ではなさそうだ。

どこの生まれなのか、言葉は礼儀正しいが時折妙ななまりが出ている。

寝込みを襲われたのか、彼女の姿はあまりにも軽装だった。

袖の無い短いシャツに肌にぴたっとした短パン。

首から巻いていたのはどうやらマントではなくタオルケット。

そしてリュック。


自身にもあまり状況がわかっていない様子で

切れ切れに……言葉を選ぶように一生懸命話した内容から


気が付いたら森の傍に居て、いきなり兵士に追われた

と、いう事だけははっきりとわかった。


自分がなんという名前の村から来たのか……

どうしてこの森の傍に、そんな格好で居たのか……は

全くわからないようだ。



先ほどの場所から程良く離れた所で、セイ達は野宿の場所を構えた。

焚き火が珍しいのか、は最初こそきゃっきゃとはしゃいで焚き火を見ていたが

今はおとなしく、ぱちぱちと燃える炎をぼんやりと見ている。



「疲れてるなら、眠った方が良いよ」

セイに声をかけられ、は目をぱちくりして顔を上げた。

「え! あ、いえいや……。 その夜っぴきなもんで、あんま眠くはないです」

てへっと、笑う様子に、さっきのパニック状態はすっかり収まったのだとわかる。

「ならいいけど」

「それにこんな焚き火ってキャンプファイヤー以来で、なんかどきどきして」

「キャンプファイヤー……」

「はい。 キャンプファイヤーです」

彼女はこくんと頷くと、また言葉を探すように目を泳がせてから

「えっと、学校とかの旅行の時に、よく大きな焚き火作ってその周りでみんなで踊ったり歌を歌ったりしたんですよね」

「踊ったり唄ったり?」

「はい! 踊りはともかく、歌は面白いです!」

「どんな歌を」

元気よく、そして楽しそうに説明するの言葉にセイが続けて問いかける。

するとがよいしょっと立ち上がった。

「えっとですね……」

ごほんと、咳払いを一つし

「もえろーもえろーあざやかにー♪」


いきなり歌い出した。


「夏はかっかと照るだろうー冬はーなるだけあたたかくー はるはーやさしく照るがよいー♪もえろーもえろー明るくもえろー消えないようにどんどんもえろーー♪
とか」

ぱちぱちぱちと拍手しながら、セイが笑って言った。

「まさか、歌ってくれるとは思わなかったな」


「まぁ、はずみってやつで。 セイくんは歌とか唄わないですか?」

照れくさそうに……も笑って答えると

またよいしょ、と小さく呟いて焚き火の前に座る。

「僕は……唄わないな」

少し苦笑混じりに言ったセイの顔をはじーっと見て、首を傾げた。



「すんごく良い声だから歌唄うともっと腰にクると思います」

時々やはりわからない言葉を言う。

「……機会があったら歌ってくれる?」

「機会があって、気が向けば……ね」


機会があって、気が向けば……その言葉には大げさに喜んだ。

「ひゃっほー☆」

バンザイまでしている。


「歌、好きなんだ?」

「大好きですよー♪ コーラス部だし、そういう集会にも行くし」



ぐう



と、そう言ったの腹から、あまり可愛いとは言えない音が鳴る。

「ひゃあ」

慌てて、は腹を押さえた。 

耳まで赤くして、えへ、とセイの方を見る。


セイは少し驚くと、笑って言った。

「……お腹空いたな、そういえば。 は?」

「う……うはは……減ってるみた……い」

かなり照れくさかったらく、ごまかし笑いを続けているが、顔の火照りは引いていない。


「携帯食、まだ残ってたかな……」

自分の荷袋を引っくり返そうとしたセイをが慌てて止めた。

「いやいや、それには及ばず! たぶん、持ってこれてる……はず……」


持ってこれてる


まただ。 時折出る言葉はあまり使われる言葉ではない。

そんな事を気にもせず

はごそごそとリュックの中を探っていた。

そして、中からりんごを一個、丸ごと取り出す。

「あったー! りんごー♪」

あたかも宝物を見つけたかのように、嬉しそうにその赤い熟れたりんごをセイに見せた。

「セイくんも食います? じゃなくって食べるですか?」

「お言葉に甘えて」

「あい、剥きます。 ちょっと待っててな?」

りんごを見つけたことで、安心(?)したのか、言葉がぞんざいになっている。


変わった形の小さなナイフ出して、りんごの皮、むき始め……

「………………しまった!!!皿がない!!!!」

いきなり叫ぶのも習性らしい……

「そのままでいいよ」

「そすか? じゃあごめんなさい、これで我慢したってね」

いいと言われてあっさり頷くと、は皮と芯を剥いた林檎を半分に切って渡した。


渡されたリンゴを暫く眺めて、一口囓る。


の方はよほどおなかが空いていたのか

はぐはぐとがっつくようにりんごを食べていた。


反対にセイはそんなの食べる様見つつ

一口かじると暫く休憩を繰り返し静かに食べている。


「おいしい〜走ったあとやからいつもの倍おいしい〜。 セイくんも一緒に食べてくれてるからもっとおいしい〜」


言われて動き止め、ゆっくりを見た。

「…………そういう、もの?」

「うん」

こくり、と頷きながら間髪入れずは言った。

「だって一人はつまんないです、ってかセイくん達と会えへんかったら、私死んでる……」

もうほとんど残っていないりんごを、じっと見つめてから

はセイの目をまっすぐ見た。

「ありがとうなぁ? セイくん」


ほわほわの笑顔で言われて……


セイは目を細めて彼女を見る


そしてゆっくり閉じると


薄笑いでも営業スマイルでもなく


珍しく……ニコっとした……少年ぽい笑顔をに向けた。


「いいえ、どういたしまして」






その4へGO