夜が深まっていく。

辺りにはフクロウの鳴き声と木の葉の掠れる音が響いている。



「あ、そうだ。気になる事があるので聞いてもいいすか?」

りんごを食べ終わり、お互いの持っていた濡れた紙(ウェットティッシュと、は言った)で手を拭くと、はそのゴミを、やはり持っていた透明な袋に入れながら

ごく自然を装うかの如く、セイに尋ねた。

「何?」

「この世界……じゃなかった、このハイランド?って……そのどんな国ですかね?」

ある意味不思議な質問だ。


まるでこの国の人間ではないかのような……


「どんな……か。僕もこの土地に来てそんなに経ってないから、あまり深い事は知らないんだけど

皇王が統治する国で、ハルモニアと友好関係にある。と言うか、ハルモニアの属国だ。 以南にある都市同盟と、昔から何度となく国境争いを続けていて、少し前に休戦協定が結ばれたらしいけど、それが、都市同盟の奇襲と言う形で破棄され、本格的に戦争に突入したって事だよ」

「うむ。 ……なるほど……」

真剣に、セイの言葉を一つずつ覚えるかの如くは頷いた。

そして少し何かを考えこむ。

暫くしてセイの視線を感じたのか、ハッと顔を上げる。


またの顔がかーっと真っ赤になり……慌てて、手を振って言った。

「や、なんでもないんすよ、ちょっと考えごとを……。 そういや、さっき助けて貰ったお礼言ってねぇ!!!

「あぁ、別にそんな事……」

たぶん本人に誤魔化す気はないんだろう、と思う。

思いついた行動をそのままとるタイプらしい。


はちょこんと正座をすると、手をついてぺこり、とおじきをした。

「助けてくれてありがとうございました!!」

「そこまでされると、何だか気が引けるな」

「いやいや助けて貰った以上、礼を言うのは仁義です」

どうやら彼女の信念らしい。 顔はいつになく真剣だ。


だがその真剣な顔も5秒と持たなかった。

「でもセイくんって強いよね! びっくりした!」

ついでに正座も持たなかった。 早々に足を崩すと三角座りをし、目を輝かせる。

「うん?  まぁ、その辺の雑魚兵士に比べればね……」

セイの苦笑いに対して、は満面の笑みを浮かべて言った。

「うん、強かった! あんなにぽいぽいってやっつけたもん! なんかゲームとか、映画見てるみたいだった」


また不思議な単語が出てくる。

「エイガって?」

素直に聞いてきたセイの言葉に、なにやら頷く。

どうやら言葉を探しているようだ。


「…………うん、ゲームとか映画。 ……えっと、娯楽の一種で、本とかの代わりに目で見れるの。 えっと、いつでも好きな時に見れる劇、みたいな感じ?」

「へぇ……からくりみたいなものかな。見てみたい」

呟いたセイに少し戸惑った表情を一瞬見せて……

は、はた、と自分の話したかったことを思い出したように矢継ぎ早に言った。

「でねでね! 好きだけど生ではあんまり見に行ったりしなかったからびっくりしたの!」

「あぁ。 うん、実際に見た事がないなら驚くのも無理はないね」

「戦うのって簡単なことじゃ、ないんだね。 えっとね、さっきあの男の人達……兵隊さん? あれに追いかけられた時、ほんまに怖かってん。 なんつーの? なんか、殺られる!! って思った。 何言ってるかわからへんし、途中でいっぱい怪我するし、足首痛くなるし」

の声の雰囲気が少し変わった。

「私、自分はもっとちゃんと戦えるって思っててん。 そやのに、全然あかんかった……修行がたりへんねんなぁ。勉強になったわ」

多少、興奮しているのもあるのだろう。 拳をぎゅっと握りしめたその頬は少し火照ったように赤い。

「あはは、勉強か。そうだね、生きてる限りは勉強の連続だよ」

「うーーーん、勉強して、がんばって強くなりたい」

うーんと、いうのと同時に両手を空に上げてのびをする。

そしてふうっと肩をおろして……今度は穏やかな表情で言った。

「……でもできる事で強くなるわ。 無理なもんは無理やし、でもできることもあるかもしれへんし……。 頑張ることは投げたないし」


くるくると表情が変わる。 まるで回転木馬のようだ。

だが次に笑って言ったその声には今までとは違う真剣味が含まれていた。


「この世の中はわからんことや凄いことでいっぱいやなぁ」


は手に持ったゴミの袋の口を縛り、リュックの横に置いた。

そして打って変わってまた普通に話し出す。

「ごちそうさまでした。 美味しかったね、りんご。 りんご、持ってきておいて良かったー。 あ、あとな、チョコとかバナナもあるねん。 食べる時言ってな、セイくんにもあげるから。 チョコがな、特に美味しいねん! マカデミアンナッツが入ってるんよ。 最初CMでベッカムが出てたから買ったんやけど、これがなかなか食べ安食って、夜食とか疲れた時のおともってやつで…………」


ガクッ


言葉が途中でとぎれ、体が糸の切れた人形のようにがくんと下がった。



「……どうかした?」

セイが近づいて、を見ると……


ぐっすり眠っている様子だ。

お腹もいっぱいになり、緊張も解れ……話している間に疲れが一気に出たのかもしれない。


ふっと笑うと、起こさないように、彼女が握りしめていたタオルケットを肩にかけてやる。




寝てる彼女に背を向けると、その微笑みが無表情に変わる。




そのまま自分の座っていた場所まで戻り

膝を抱えるように三角座りで座ると、膝に顔を埋めて大きく溜息をついた


ゆっくり顔を上げて、を見て酷く複雑な表情で笑う







夜が    ゆっくりと  深まっていった  








CM見てく?
CM飛ばして後半1へGO